この記事の要点
1トン車の故障を報告した運転者の対応から、運転者教育の本質を考えるコラムです。「まだ走れる」と自己判断せず、運行管理者へすぐ報告したことが、事故の防止につながりました。結果ではなく行動を評価し、報告しやすい職場風土をつくることの大切さをお伝えします。
ある日、納品を終えた1トン車の運転者から一本の電話が入りました。
「アクセルを踏んでもエンジンが吹けません。」
場所を確認すると、上り坂の途中で、さらにその先にはトンネルが控えていました。
運転者は「このまま走り続けるのは危ないかもしれない」と判断し、すぐに運行管理者へ連絡してきました。幸い、その後は慎重に様子を見ながら走行を続けることができ、自力で帰庫することができました。結果として大きな事故には至りませんでしたが、一歩間違えば道路上で停止していた可能性もあった事案です。
走行を続けたことについて
走行中に重大な故障を見つけたときや、重大な事故が起きるおそれがあると感じたときは、直ちに運行を中止して会社へ報告することが原則です。今回の経験は、異常があっても走り続けてよいという意味ではありません。
運転者の判断は、ファインプレーだった
故障が疑われる症状を感じた際に、自分だけで判断せず運行管理者へ連絡する。これは運送会社の安全管理において、とても重要な行動です。
「まだ走れるから大丈夫だろう」
そう考えて無理に走行を続けた結果、交通量の多い場所やトンネル内で停止してしまえば、後続車を巻き込む重大事故につながる可能性もあります。
今回、運転者は
- アクセルを踏んでも吹けないという異常を感じた
- 「まだ走れるだろう」と自己判断しなかった
- 上り坂・トンネル手前という危険性も考えた
- すぐに運行管理者へ報告した
- 指示を仰ぎながら対応した
これはまさにファインプレーです。
なぜ、この判断ができたのか
私が運行管理者として携わってきた現場では、運転者教育とは別に、日常的な「ヒヤリ・ハット」「品質ヒヤリ・ハット」の報告や、「安全品質懇談会」の場を設けています。
とはいえ、特別な時間や人員を割いているわけではありません。点呼の合間や、荷待ちのタイミングで一言二言、「最近ヒヤッとしたことない?」と声をかける。その程度の積み重ねです。
大掛かりな制度を作ることよりも、「言いやすい空気」を日常的に保っておくこと。そちらの方がずっと大事だと感じています。
小さな異常や違和感を、その都度言葉にして共有する。そうした積み重ねが、いざという時に「まず報告する」という行動を自然に選べる土壌を作っていたのかもしれません。
今回のファインプレーも、こうした日々のちょっとした習慣の延長線上にあった可能性があると私は感じています。
運転者教育で本当に大切なのは「報告できる職場づくり」
今回のような事例は、運転者教育の観点からも大切なポイントです。
運転者教育というと、「事故防止」「法令遵守」「安全運転」といった内容に目が向きがちですが、それと同じくらい大切なのが、異常を感じたときに、ためらわず報告できる環境をつくることです。
「これくらいなら大丈夫」
「迷惑をかけたくない」
そうした気持ちから報告が遅れると、重大事故につながるおそれがあります。
今回のように、
- 異常を感じる
- 無理をしない
- 運行管理者へ報告する
- 指示に従って対応する
という流れが自然にできたことは、安全管理上、とても価値のある行動でした。
運転者教育は、知識を教えるだけでは十分ではありません。「異常が起きたら報告することが当たり前」という職場風土を育てること。その積み重ねこそが、大きな事故を防ぐ一番の安全対策なのだと、今回の出来事を通して改めて感じました。
根拠とした法令(2026年10月20日確認)
- 貨物自動車運送事業輸送安全規則 第17条第3号の2(運転者は、重大な故障を発見し、又は重大な事故が発生するおそれがあると認めたときは、直ちに運行を中止し、会社へ報告する)

