この記事の要点
日常の点呼で聞こえる「今日はあの交差点で危なかった」という一言は、見過ごせない安全情報です。ハインリッヒの法則を手がかりに、ヒヤリ・ハットを責めずに聞き取り、共有し、次の対策につなげる運行管理について考えます。
〜ハインリッヒの法則から考える、持続可能な安全運行〜
日々の物流を支えている経営者の皆様、運行管理者の皆様、そして最前線でハンドルを握るドライバーの皆様、本当にお疲れ様です。
私は物流現場で運行管理に携わる中で、「全員が今日も無事に帰社すること」の重みを何度も感じてきました。どれほど注意していても、事故の危険をゼロにすることはできません。だからこそ、事故になる前の小さな異変に気づけるかどうかが大切です。
今回は、安全管理の考え方として知られる「ハインリッヒの法則」を、日々の点呼と運行管理にどう生かすか考えてみます。
「300」という数字より、見逃したくない小さな兆候
ハインリッヒの法則は、重い災害1件に対し、軽い災害29件、傷害のない事故300件という関係で知られています。ただし、どの職場や運送会社でも事故が必ず1:29:300の割合で発生するという意味ではありません。厚生労働省も、数字そのものより、重大な災害の背景に多くの危険要因があることが重要だと説明しています。
運行管理に置き換えるなら、注目したいのは「300件集めること」ではなく、「今日、あの交差点でちょっと危なかった」といった小さな兆候を、社内で言葉にできるかどうかです。
ドライバーの皆様は日々の運行で多くの状況判断を重ねています。急な割り込みや死角からの飛び出しなど、ヒヤリとする場面に遭遇することもあるでしょう。
しかし、タイトな運行スケジュールや「これくらい、よくあること」「報告したら怒られるかもしれない」という心理が働けば、せっかくの気づきは共有されないまま終わります。
ヒヤリ・ハットは、数だけ集めても意味がない
報告があったら、発生した場所・状況・背景を確認し、必要な対策とその後の変化まで見ることが大切です。報告した本人を責めることが目的ではありません。
運行管理者に求められる「受け止める余裕」
2024年問題や人手不足への対応、デジタコやAIドラレコのデータ確認など、運行管理の仕事は幅広くなっています。数値が集まる一方で、一つひとつの背景まで見切れない、という悩みもあると思います。
ここで忘れたくないのが、システムによる管理の先にある「対話」です。
例えば、ドライバーから「今日、あの交差点でちょっと危なかったんだよね」と話が出たとき。
「なぜそんな運転をしたんだ」とすぐに責めるのではなく、「教えてくれてありがとう。どんな状況だった?」と聞いてみる。
ほんの一言ですが、報告しやすい空気をつくるきっかけになります。報告を受けた側が原因を一緒に考え、必要な情報を残すことが、次の運行で同じ危険を減らす助けになります。
もちろん、報告しやすい職場をつくるだけで、事故や行政処分を必ず防げるわけではありません。日々の記録・教育・改善と結び付けてこそ、実効性のある安全管理に近づきます。
「安全」への取組は、事業を守る備えになる
重大事故がひとたび起きれば、人命だけでなく、企業の信用や事業継続にも大きな影響が出ます。だからこそ、毎日の点呼を形式だけで終わらせず、小さな兆候を拾う場にしたいものです。
「今日も何もなくてよかった」という日常は、ドライバーの皆様の見えない判断や安全行動の積み重ねで成り立っています。
ぜひ、今日の点呼から「いつもと違う小さな気づき」に耳を傾けてみませんか。私も物流現場での経験を生かし、行政書士として運送事業者の皆様が必要な手続きを整理するお手伝いをしていきたいと考えています。
本日も、全車両が安全に戻ってこられる運行を願っています。
参考資料(2026年10月21日確認)
厚生労働省「職場のあんぜんサイト:ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)」
厚生労働省の解説を読む
この法則は安全教育の考え方として引用しており、運送業の事故発生件数を予測する数値としては扱っていません。

