この記事の要点
「車間を空けて」では伝わりにくい安全指示も、「時速60kmで1秒に約17m進む」といった具体的な数字に置き換えると、行動に結びつきやすくなります。ただし、睡眠不足など体調に関わることは、数字で注意を促す前に、点呼で申し出てもらい、乗務できる状態かを確認することが前提です。
毎日の点呼で、私たちが一番伝えたいのは「今日も無事に帰ってきてほしい」という願いです。しかし、「法定速度を守って」「車間距離を十分に」といった言葉を繰り返すうちに、どうしても現場では「いつもの決まり文句」として聞き流されてしまいがちです。
どうすれば、私たちの「安全への想い」が、ドライバーさんの運転席まで届き、一日中持続するのでしょうか。そのヒントは、曖昧な表現を「具体的なイメージが湧く数字」に置き換えることにあります。
1. 「いつもの言葉」を「具体的な指標」へ
ドライバーさんの脳は、毎日多くの情報を処理しています。そのため、具体的でない指示は無意識に通り過ぎてしまうことがあります。そこで、ほんの少し「具体的な数字」を添えるだけで、指示は「心強いガイド」に変わります。
2. 明日の点呼から使える「安全の数字」
① 「車間距離」を「時間の余裕」でイメージする
「車間を空けて」を「秒数」に変換してみます。
点呼指示の例
「時速60kmで走っているとき、トラックは1秒間に約17メートル進みます。今日は、車間距離にもう『1秒分のゆとり』を足してみてください。そのわずか1秒のゆとりが、いざという時のあなたを守る大きな盾になります」
② 「徐行」を「物理的な安心」でイメージする
「ゆっくり曲がれ」の理由を、遠心力の仕組みで伝えます。
点呼指示の例
「カーブでかかる横の力は、速度が2倍になると4倍になります。今日のような積載時は、カーブの手前で、あと5km/hだけ早めに減速してみてください。少し速度を落とすだけでも、荷物や車体にかかる横の力は小さくなり、荷崩れや横転のリスクを下げることにつながります」
③ 「健康管理」は、まず「申し出てもらう」ことから
体調については、数字で注意を促す前に大切なことがあります。
睡眠不足や疲労などで安全に運転できないおそれがあるとき、運転者はその旨を会社に申し出ること。会社は乗務前の点呼でそのおそれの有無を確認し、おそれがある運転者を乗務させないこと。これは貨物自動車運送事業輸送安全規則で定められていることです。
点呼指示の例
「昨夜はよく眠れましたか。眠りが足りない、体が重いと感じたら、遠慮なく今ここで言ってください。言ってもらえるほうが、会社としても助かります。今日乗れる状態かどうか、一緒に確認しましょう」
「睡眠不足だと反応が遅れやすい」という説明を添えるのは良いことです。ただ、それは「気をつけて乗ってもらう」ためではなく、「申し出てもらう」きっかけとして使うのがよいと、私は考えています。
3. 「伝わる点呼」が会社とドライバーを支える
これからの運送業界で大切なのは、形式的なハンコではなく、「どれだけドライバーさんの心に届く対話ができたか」という実効性です。
数字に基づいた具体的なアドバイスは、ドライバーさんの運転を助けるだけでなく、会社が日頃から本気で安全に向き合っているという姿勢を、ドライバーさんに伝えることにもつながります。
点呼の記録と、指導監督の記録は別のものです
点呼で行った指示は、点呼の記録に残します。一方、運転者への指導監督(いわゆる運転者教育)は、実施した日時・場所・内容などを、点呼とは別に記録して残すものです。点呼での声かけだけで、指導監督の記録の代わりにはならない点にご注意ください。
毎日の点呼を、形骸化したルーチンから、プロとしての誇りを確認し合える大切な時間に。現場の皆さんの努力が、確かな安全に結実することを願っています。
根拠とした法令(2026年10月20日確認)
- 貨物自動車運送事業輸送安全規則 第3条第6項(睡眠不足などで安全に運行できないおそれがある乗務員を、運行の業務に従事させない)
- 同 第7条第1項第2号(乗務前の点呼で、そのおそれの有無を確認する)、第5項(点呼の記録・1年間保存)
- 同 第10条第1項(運転者への指導監督の記録・3年間保存)
- 同 第17条第1号の2(運転者は、そのおそれがあるときに会社へ申し出る)
速度と距離の数字は、計算上の目安です(時速60km=秒速約16.7m)。

